2019年11月9日(土)大分大学 全学研究推進機構教授 一二三恵美氏に「常識は常識?スーパー抗体酵素は『非常識』から始まった・・・」と題してご講演いただきました。

 

 

 

 

 

 

抗体は同じ構造をした2本の重鎖(H鎖, heavy chain)と2本の軽鎖(L鎖, light chain)から形成されています。抗体は、体内に侵入してきた細菌などの異物(抗原)を認識して結合する働きと、免疫を担う細胞を活性化させて異物を排除する働きがありますが、抗体自身が異物(抗原)を分解する働きはないと考えられてきました。

一二三先生は広島県立大学に在職中、2種類の抗体を必要とする実験で、1種類の抗体しかなかったため、重鎖と軽鎖とに分解して実験を行ったところ、本来なら考えられない「妙なデータ」が出たそうです。最初は実験ミス?と思ったそうですが、失敗の原因を追究していくうちに、抗体の軽鎖が抗原を分解した可能性にたどり着いたそうです。その後さらに多くの検証実験を重ね、「抗体の中には抗原分解能を持つ抗体鎖を隠し持っているものがある」ことを突き止められました。この抗原分解能を有する抗体鎖を「スーパー抗体酵素」と名付けられました。「抗体」と「酵素」は別のもの、抗体に抗原を分解する能力はない、という「常識」をくつがえしたのです。

「スーパー抗体酵素」は異物を認識して結合する能力と、その異物を分解する能力を合わせ持っているため、細菌やウィルス、がん細胞などのターゲットだけを狙い撃ちできる医薬品の開発が期待できます。動物実験では、ピロリ菌やインフルエンザウィルスに対するスーパー抗体酵素の効果が確認されていますが、ヒトへの適用には、まだ越えねばならないハードルがあるようです。抗がん剤など早く実用化するといいですね。

本講演では、学術的なお話とともに、一二三先生の研究者としての歩みもご紹介くださいました。一二三先生は、もともと研究者になるつもりはなく、何か資格が取れる学校をと、臨床検査技師を養成する医療技術短期大学を卒業されました。卒業後に入社した企業の研究室では、他の研究員とのレベルのギャップに、もう会社に行きたくないと思うほど悩まれたそうですが、落ち込んでばかりいても何の解決にもならないと、自分に不足している知識は勉強して補い、周囲の人に教わりながら、相談しながら、頑張ってこられたのだそうです。

最後に、若い人たちに向けて、こだわらなくてよい「常識」と大切にすべき「常識」を提示してくださいました。本日の参加者に中学生・高校生が少なかったのは残念でしたが、メモを取りながら熱心に聴講し、講演終了後にも、先生にいろいろと質問をしていた二人の女子高校生の姿が印象的でした。

 

*胃には胃酸があるため、細菌がすめるような環境ではないというのが、常識だったが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出してアンモニアを発生させ、胃酸を中和して胃にすみつくことができる。