演題 脱炭素社会へ ~水素エネルギーについて~

講師 佐々木一成 九州大学副学長・主幹教授

        水素エネルギー国際研究センター長
        次世代燃料電池産学連携研究センター長
        カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 主任研究者
        大学院工学研究院機械工学部門 教授

日時 2021年3月13日(土) 14:30~16:00
会場 大分県立図書館 視聴覚ホール

2020年度の科学講演会は、ウイルス感染症の流行で開催が危ぶまれましたが、なんとか無事開催することができました。受付での手指消毒や検温はもちろんのこと、間隔をあけた座席配置、講師前の大きな透明パネルの設置など、大分県立図書館のご協力のもと、感染防止策を徹底しての開催となりました。
今回は、来場者がいつもより早く受付に来られ、また、福岡からの参加者もおられるなど、環境問題への関心の高さを伺わせました。

近年、地球温暖化の影響と考えられる災害が増加し、CO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの排出が、実質ゼロである「脱炭素社会」(温室効果ガスの排出を減らす低炭素社会ではない)へ向けての研究開発は急務となっています。

 燃 料 電 池 

現在の主なエネルギー源である天然ガス・石炭・石油は、いずれも「炭素」を含んでいますが、太陽光や風力・水力・地熱などの再生可能エネルギーで発電された電気で、水を電気分解して発生する「水素」を、エネルギー源として使えば、炭素を含まない究極のクリーンエネルギーとなります。電気を水素の形にして溜めておくことにより、長期間の保存が可能ですし、他の場所で使うこともできます。また、輸入だけに頼らず、国内で生産することもできるため、国家安全保障上も有利です。

【 燃料電池 】は、この「水素」と「酸素」を化学反応させて、直接電気を作る発電装置です。現在主流である天然ガスや石炭などの化石燃料を燃やして発電するシステムでは、水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回転させて発電するため、各段階でエネルギーのロスが生じます。また、CO2も排出します。一方、燃料電池による発電では、化学反応によって直接電気が発生するので、エネルギーロスが少なく、CO2も出ません。

燃料電池には、いくつかの種類がありますが、講演会では「固体高分子形燃料電池(PEFC)」を使って、デモ実験をしてくださいました。実験に使われた電極は、カーボンに触媒として白金(プラチナ)を担持させたもので、棒状の電極をイメージしていましたが、黒くて薄い膜のようなものでした。燃料電池セルの中に、電解質膜を介して、この電極が挟まれています。太陽光に見立てたハロゲンランプを点けると、水素貯蔵容器の中に、水素の気泡が発生し、プロペラが回り始めました。ランプを消しても溜まった水素によって発電し、しばらくの間プロペラは回り続けていました。

            

「水」には精製水を使いましたが、女子高校生から地球にたくさんある「海水」は使えないですか?という質問がでました。海水を直接電気分解すると、有毒な塩素ガスが発生しますし、含まれているいろいろなミネラル分で、装置が劣化するので、海水は脱塩しなければならないとのことです。

調べてみると、太陽光や風力の再生可能エネルギーだけで、6年かけて世界一周航海を目指しているフランスの「エナジー・オブザーバー号」が、海水を淡水化して生成した水素を利用しているそうです。その水素は圧縮され8個のタンクに蓄え、再エネが足りなくなると、水素が燃料電池に送り込まれ発電します。(2019年末に、トヨタの燃料電池車MIRAIの技術が使われている燃料電池も搭載されました。)東京オリンピック・パラリンピックに合わせて、日本にも寄港する予定になっていましたが、さて、どうなることでしょう・・・?(3月頃にガラパゴス諸島に到着したようです。)

fuel cell(FC)が燃料電池のことです。ガラパゴスでの様子も公開されています。https://www.youtube.com/watch?v=__oAJhhG8OU

エ ネ フ ァ ー ム( 家 庭 用 燃 料 電 池 )

太陽光パネルやエネファームを自宅に設置しているか来場者の方々に佐々木先生がお尋ねしたところ、設置している方は誰もいませんでした。「エネファーム」の認知度は、まだ低いかもしれません。ここでエネファームについて触れておきましょう。

エネファームは「エネルギー」→「エネ」+「農場」→「ファーム」の造語だそうです。エネファームは、自宅で電気をつくり、お湯も同時につくり出す家庭用燃料電池です。都市ガスやLPガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて、電気をつくり出します。このとき発生する熱でお湯を沸かし、給湯などに利用します。

                       家庭用燃料電池エネファーム

発電所から送られてくる電気は、送電ロスがありますが、自宅で発電するため送電ロスはありません。(エネファームはエネルギーの「地産地消」)また、昨年は大きな台風で電柱が倒れ、停電になった地域がありましたが、水道とガスが通っていれば発電が可能です。(ただし、エネファームが運転停止中に停電になった場合、自動的に起動しない機種もあります。)化石燃料であるガスを使いますが、エネルギー利用率が90%以上と高いため(従来の発電システムでは40%程度)、CO2排出の削減になります。

現在販売されているエネファームはパナソニック(固体高分子形燃料電池PEFC)と京セラ、アイシン精機(個体酸化物形燃料電池 SOFC)などがあり、それぞれの特性が異なるので、各家庭の使用状況に合わせて選択することになるようです。

大分市ではエネファームの設置費用の補助を行っています。詳しくはこちら

燃 料 電 池 車 と 電 気 自 動 車
& エネルギー情勢懇談会(第7回)資料
「脱炭素化に向けた次世代技術・イノベーションについて」  

福岡から来られた方から、燃料電池車(FCV)か電気自動車(EV)を購入するとしたら、どちらを選べばよいですか?という質問がありました。長距離を走ることが多いならFCVの方が適しているとのお答えでした。水素を充填する施設-水素ステーションは、2021年2月現在、大分県にはまだ1箇所(大分市大字皆春行長30-7 事業者は江藤酸素株式会社)しかありませんが、福岡県には10箇所ありますから、FCVを選択することもできますね。

ガソリン車の販売を禁止する方向にある今、アップルなどの自動車メーカー以外のメーカーも電気自動車の開発を行うようになってきました。(販売は考えていないそうですが、ソニーまでも電気自動車を造ったとニュースになりました。)電気自動車は走る時にはCO2を出しませんが、その電気を作るのに化石燃料で発電していたのでは意味がありませんから、クリーンな発電方法の開発も欠かせません。

2018年の資源エネルギー庁エネルギー情勢懇談会(第7回)資料「脱炭素化に向けた次世代技術・イノベーションについて」にあるFCVとEVを比較した表を挙げておきます。この資料 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/007/pdf/007_008.pdf  
には、水素の活用について、電力分野だけではなく、「⑤ 全分野にまたがる水素イノベーション」の項(褐炭水素、メタネーション、水素還元など)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/ene_situation/006/pdf/006_011_06.pdf 
もあり、
また、「原油のみに依存しない化学産業」や「宇宙太陽光発電」といった最新の研究の紹介もありますので、関心のある方はご覧ください。

九 大 水 素 プ ロ ジ ェ ク ト

佐々木先生が、現在研究されている「水素も作れる可逆燃料電池」の紹介がありました。発電量は、需要と供給のバランスをとる必要があり、需要より少な過ぎても多過ぎても停電になる恐れがあります。そのため現在は、太陽光発電が多すぎると発電を抑制していますが、「可逆燃料電池」は、その余剰電力で水素をつくり(電気を水素の形にして蓄える)、必要時にその水素で発電し、その両方を可逆的に行える画期的なものです。現在、発電量のバランスの調整は、火力発電で行われていますが、「可逆燃料電池」の水素の製造(電気を使う) ⇄ 発電(電気をつくる)でバランス調整できれば、CO2を排出する火力発電を減らすこともできるでしょう。

九州大学伊都キャンパスには、水素関連のいろいろな研究施設があり、今世紀後半のエネルギー社会を提案しています。未来社会が見える「タイムマシン」なのだそうです。今はコロナウイルス感染対策のため、このキャンパスの見学はできませんが、これまで多くの人が視察や見学に訪れています。

                                  講演会のスライドより

伊都キャンパス紹介ビデオ https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/university/campus/

伊都キャンパス見学メニュー https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/university/facility/bigorange/menu

佐々木先生は社会に貢献できる研究をしたい、とエネルギー分野を選ばれたそうです。本日聴講した中学生、高校生の皆さんにも、これからの地球の未来を考えた選択をしてもらえたらと思います。
本日の講演会には中学生の参加が、これまでよりも多かったように見受けられたものの、高校生も含め若い世代の参加が少なかったように思われます。海外では、17歳のグレタ・トゥンベリさんや19歳のメラティ・ワイゼンさん(住んでいたバリ島のいたるところにプラスチックごみがあふれているのを見て、12歳の時に使い捨てプラスチックの廃止運動を始めた。)達を中心とする若い世代が、環境問題と向き合っています。大分の若い皆さんも、環境問題を自分事としてとらえ、このような講演会の機会があれば、積極的にどんどん参加してほしいですね。

世界の平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて1.5℃に抑えるように努力するパリ協定の目標を実現するには、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を、森林や海洋などの吸収分を差し引いて実質ゼロにする必要があります。2050年に実質ゼロにするには、2030年の時点で温室効果ガスの排出を半分に減らしていないと、50年の実質ゼロは実現できないと言われています。「脱炭素社会」は研究者の努力だけで実現するものではありません。私たち一人ひとりが関心を持ち、私たちにできることは実行していくことも必要です。あと9年しかありません

本講演会のきっかけとなった「朝日地球会議」のパネル討論 「クリーンに、スマートに~すぐそこまで来ている水素社会」のアーカイブ動画
パネリストは佐々木先生のほかに、パナソニックアプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部長、 岩谷産業 水素本部長
https://www.asahi.com/articles/ASNBY66JLNB6PLBJ00Q.html